【台風の夜に】 「まだ止まないようだな」 誰にともなく僕は呟いた。窓の外の暴風雨は収まる様子を見せない。スマホで天気予報サイトを見る とまだ数時間は悪天候が続きそうだ。 「すみません、急に雨宿りする事になってしまって」 雨音にかき消されかけていた水音が止まり、扉が開く音も聞こえた。万が一を考えて僕は振り返らず に謝った。 「いいよいいよ、知らない仲じゃないんだし、こっちこそ散らかっててごめんね」 部屋の主・岸楓佳がジャージ姿でシャワー室から出て来た。解かれた髪には僅かな水気が残ってい る。普段は特徴的なお団子ヘアーなだけに、岸さんの今の姿は新鮮だ。 「こんなに酷いのは久し振りかな」 岸さんは僕にスポーツドリンクとタオルを手渡すと隣に座り込み、同じように窓の外の雨を眺め始め た。 「長くなりそうだし、あんたもシャワー浴びとけば?」 「いえ、流石にそれは ...... 身体を拭ければそれで充分です」 僕は一言感謝の言葉を伝え、手渡されたタオルで顔や頭を拭く。岸さんの匂いがした。 部屋に上がってから数時間。僕らは何かする訳でもなく、時折ちょっと言葉を交わしたりスマホを弄っ たりな具合だ。 雨雲の裏の太陽はとっくに沈み部屋も暗闇に包まれていたが、岸さんはもう面倒くさいと灯りを点け ていない。 静かにしている僕らとは真逆に台風の勢いは激しさを増すばかりで、交通網の麻痺の報道もチラホ ラ出ている。 「これは今日中に帰れそうにありませんね ...... 僕、このままここにいても大丈夫なんですか?」 「大丈夫って?」 「ほら、ここって門限過ぎたら男子は退去の決まりじゃないですか。それに僕が岸さんの部屋に来て るのも」 知らない仲ではないと岸さんは言ったものの、時々会ったり NINE したりするレベルで親密とまでは言 えなく、今日にしても向月の寮の近くで用事があった時に台風直撃を食らって足止め状態の所で偶 然会っただけだ。今の状態を向月の部員に見つかったら色々な意味で騒ぎになるだろう。 「厳密に言えば大丈夫って事はないけど、この天気だったら1、2年は帰ってこれないだろうし、3年も 少なくともこの階は私しかいないし、バレないでしょ。明日には収まっているだろうし、始発で帰ったら いいよ」 あの高坂さんの女房役だと言うのだからかなりしっかり者だと思い込んでいたが、部屋の散らかり具 合だったり意外と大雑把な所もあるらしい。反対したところで寮の外に出る訳にもいかないので僕は 頷いた。 始発の時間、そして現在時刻を確認しようとスマホのロックを解除する。当然と言えば当然なのだが まだかなり時間がある。そもそもまだ日付を跨いですらいない。 「あ、そう言えばそろそろ枕カバーの乾燥、終わるんじゃないですか? 4時間乾燥にしましたよ ね?」 時間を見て最初に部屋に入った時の惨状を思い出す。岸さんは網戸だけを閉めた状態で登校したら しく、窓際にあった寝具一式は台風の被害をモロに食らっていた。 「もうそんな時間か。じゃあ取りに行ってくるね ...... きゃっ!」 立ち上がって数歩歩いた所で岸さんが突然バランスを崩し後ろのめりになった。 「危ないっ!!!」 鈍い音はしなかった。肩に痛みも走らない。 とっさに身体を動かしたのだが位置や体勢が良かったのだろう、大きな衝撃もなく岸さんを庇う事が 出来た。 「大丈夫ですか岸さん!? どこか痛みませんか?」 「う、うん、大丈夫。なんかごめん、床のゴミで滑っちゃったみたい」 ただでさえ散らかっているのにこの暗闇の中。滑ってしまうのも無理はない。 「僕が言うのもなんですけど、たまには掃除してくださいね。他の部員が部屋に来たらびっくりしてし まいますよ?」 「あはは、そうだね ...... それより、もう離してくれてもいいかな?」 「はな ... ? ... !!」 岸さんに指摘されはじめて自分達の体勢に気が付く。ギリギリのタイミングのストレートスライディン グで飛び込んだので、仰向けで岸さんを抱き抱える体勢になっていたのだ。途端に意識してしまい、 恥ずかしさで一気に顔が赤くなるのを感じた。本校部員を指導する時も身体には触れるが、ここまで 身体は密着しないし、当然力も加減している。 「ご、ごめんなさい。無意識に ...... !」 しかし僕は離すどころか岸さんを抱く腕により力を入れた。 「どうしてそこで力が入るのかな」 岸さんの声からは苛立ちではなく、戸惑いが多く感じられた。 「どうして ...... ですか」 恥ずかしさこそあったが同時に不思議と冷静にいられた。考えるより先に身体が動いた理由が明白 だったからだろう。 「岸さ ...... 楓佳さんが好きだからじゃないでしょうか」 楓佳さんが反応出来る前に僕は彼女の顎を引き寄せ、唇を合わせる。 「ん ...... 」 楓佳さんは拒まなかった。月並みな言葉ではあるが、永遠より長く感じる一瞬が過ぎ、僕らの唇は離 れた。彼女を抱きしめる腕に力を込める。答えるように楓佳さんは沈黙を破った。 「私、あんたが思うような人じゃないよ。あんたが知ってる私が全てじゃないよ」 「それは僕も同じです。これからもっとお互いを知っていきましょう」 「ズボラだし、周りに理解されないような拘り持ってて面倒くさいよ」 「そんな楓佳さんでも好きです」 「きっとどこかで幻滅しちゃうよ。それにあんたには本校の部員がいるでしょ」 「僕は楓佳さんがいいんです」 「っ ...... そんな事言われたら ...... 」 楓佳さんの強張っていた身体から途端に力が抜けた。僕は彼女を床に降ろし、覆いかぶさる体勢に なるよう身体の位置を入れ替える。 「なんで私の周りにはこんなに振り回してくる投手ばっかりなんだろうね」 発せられた言葉こそ愚痴じみていたが、表情は笑っていた。僕が笑顔を返すと今度は楓佳さんの方 から求めてきた。 「ん ...... んん! ...... ちゅぷ ... 」 唇を重ねていると生暖かい感触が口内に侵入してきた。知らない内にキスの主導権を握られていた 事に気が付き、心の中で微笑む。楓佳さんのリードに答えようと僕も舌を動かし、絡ませ合う。 部屋の外は依然として叩きつける雨と唸るような暴風が続いていたが、僕らの耳に入るのはお互い の息遣い、舌が絡む水音、そして服が擦れる音だけだった。楓佳さんの腕は僕の背中に回ってお り、僕も空いた手で彼女の肩や背中を優しく撫でる。 「ちゅ ... くちゅ ...... ぷは ...... 」 長いキスでお互い息絶え絶えになり、唇を離す。楓佳さんに物足りなさそうな眼差しで見つめられ、 それならと僕は首筋に吸いついた。 「あっ ...... そこはちょっと ...... 」 不意を突かれた楓佳さんが戸惑いと嬉しさが入り混じった声を出す。聞いた事の無い楓佳さんの声 が僕の気持ちを昂らせ、吸いつく行為に夢中にさせた。 「あっ ... ふぅ ...... 」 鎖骨の少し上の部分に吸いついたら楓佳さんの声が裏返った。ここが敏感なのかと舐めてみたら気 持ちよさそうな声が溢れ出たのでその場所を更に責め立てた。 「あ ... あぅ ... あっ」 一番感じる部分を確信すると共に再び吸いつく。その間に今まで肩や背中を撫でていた手は形の良 い胸やお尻にジャージの上から触れていた。完全に無意識のうちだった。他に感じる場所はないか と本能的に探していたのだ。未知の快感に楓佳さんは身をよじらせる。 キスマークをしっかり残し、僕は一旦身体を離した。僅かに残った理性を絞り出し、楓佳さんを見つめ る。 「 ...... いいよ」 こちらが聞く前に楓佳さんは頷いた。 🏮 おいやべーって そこのコンビニ ポテト半額だよ 行こーぜ!